リラックス度
★★★★☆
防水度
★★★★☆
温泉で読みたくなる度
★★★★★
「城崎裁判」
著:万城目学
発行:NPO本と温泉
兵庫県の日本海側にある城崎温泉は、名作「城の崎にて」を書いた志賀直哉をはじめ、多くの文豪が訪れた文学のまち。浴衣でそぞろ歩きしながら外湯を巡るのが楽しい、僕の大好きな温泉でもあります。
「城崎裁判」は、そんな城崎から発信する、現代版・温泉地文学シリーズの一冊。「プリンセストヨトミ」などで知られる人気小説家、万城目学さんが、志賀直哉が逗留した三木屋旅館の二十六号室に宿泊し、書き下したものです。
ストーリーは1917年に書かれた志賀の「城の崎にて」にオマージュを捧げながら、舞台は現代の城崎温泉。主人公が温泉に浸かっていると湯煙からイモリの化け物が現れ、その昔、石を投げてイモリを殺した小説家の罪を問う裁判に巻き込まれていく――万城目学ならではの世にも奇妙な温泉奇譚です。
実はこの本、城崎温泉でしか買えません。城崎温泉を訪れ、まさにその湯に浸かりながら読む贅沢を体験していただければと。そのために、ブックカバーはタオル生地、紙も耐水性の高いストーンペーパーを使用し、ちゃんと防水対策もしてあります (笑)。
リラックス度
★★★☆☆
ドキッとさせられる度
★★★★☆
背筋が伸びる度
★★★★★
「空をかついで」
著:石垣りん
発行:童話屋
忙しない日々におすすめしたいのが、短い言葉でぐっと心を動かす「詩」。中でも、現代の女性にぜひ読んでみてほしいのが、戦後を代表する女性詩人のひとり、石垣りんです。銀行員として働きながら詩を書き続けた人で、仕事と創作を両立した女性の大先輩としても、リスペクトできるのではないでしょうか。
彼女の詩が素晴らしいのは、洗濯や料理といったありふれた日常を、詩にすることで「生きる矜持」に転化させてしまうこと。それだけに強く共感できるし、読み手の心に深く刺さります。僕が好きな詩は「表札」。1分もかからずに読める短い言葉なのに、心が脱皮して生まれ変わるような、鮮烈さがあります。「儀式」や「洗濯」もいいですね。
詩は、急がずゆっくり読むのがいいと思います。たとえば、気に入った詩を、何度も何度も、よく噛むように読んでみる。すると行間から何かを感じることができるようになり、風景が立ち上がってくるかもしれません。豊かな詩の世界に、お風呂で浸ってみてください。
リラックス度
★★★★★
クスッと笑える度
★★★★☆
共感できる度
★★★★☆
「きれいなシワの作りかた~淑女の思春期病」
著:村田沙耶香
発行:マガジンハウス
村田沙耶香さん、僕は彼女が描く女性の心の機微が素晴らしいと思っています。「コンビニ人間」で芥川賞を受賞した方ですが、僕は、三島由紀夫賞を受賞している、スクールカーストを描いた「しろいろの街の、その骨の体温の」でのけぞりました。思春期の女の子の生々しい心理を捉えた、見事な小説を書く人だなと。そんな彼女の、初めてのエッセイです。
30代に入った彼女が、白髪、徹夜が辛い、異様に早起きになるなどの、体の変化を顕著に感じるようになって、彼女はその現象を、十代の思春期に次ぐ女性のドラスティックな変化期、「淑女の思春期病」と捉えます。その変化と痛みをユーモラスに拾い集めたのが、この作品です。
男の僕でもクスクスと笑ってしまいました。他の村田作品にも通じる魅力で、彼女は自意識の捉え方が独特。世間の価値観と自分との「距離感」に敏感で、そこをよく観察して精密に書いているから、シンパシーと笑いがこみあげてくるんですね。しかも彼女、すごく正直で、自分の殻をどんどん脱いでいってくれます。まさにお風呂で読むにふさわしい一冊(笑)。
ブックディレクター。
有限会社BACH代表。未知なる本を手にしてもらう機会をつくるため、本屋と異業種を結びつける売場やライブラリーの制作をしている。「伊勢丹新宿店 ビューティアポセカリー」「JAPAN HOUSE Sao Paulo」「猿田彦珈琲 調布焙煎ホール」など。その活動範囲は本の居場所と共に多岐にわたり、編集、執筆も手掛けている。著書に『本なんて読まなくたっていいのだけれど』ほか。4月に発売された大学の図書館プロジェクトをベースに作った『私の一冊』を監修。Instagram>yoshitaka_haba